07 DOCTOR
BLOG

神経の病気

椎間板ヘルニアの診断・手術について

以前のDOCTOR BLOGにて椎間板ヘルニアについて解説いたしました。
椎間板ヘルニアは、足の麻痺や腰の痛みを生じる神経の病気の中で最も多い病気です。
特に、ミニチュア・ダックスフント、フレンチ・ブルドッグ、トイ・プードルなどの犬種で比較的多くみられ、突然麻痺を生じて立てなくなることも少なくありません。
当院では、特に椎間板ヘルニアの診断や治療に力を入れており、立てなくなった動物たちがまた元気に走り回れるように最大限努めております。
今回は、当院での胸腰部の椎間板ヘルニアの診断や治療について、より詳しく解説いたします。
頸部の椎間板ヘルニアについては後日解説予定です。

診断について
前回もお伝えしたように、レントゲン検査、脊髄造影検査、CT検査などの方法がありますが、MRI検査が最も診断には優れています。他の脊髄の病気を除外したり、手術法の選択や、予後(治療でどれくらい良くなる見込みがあるか)を評価するうえでたくさんの情報が得られ、安心して診断や治療を行うことができます。
麻痺や痛みを生じる病気はたくさんあり、もし椎間板ヘルニア以外の病気であった場合は、全く治療方法が異なる可能性があり、神経科医による正確な判断が必要となります。
当院では、MRI検査にて迅速かつ正確に診断を行えるよう心がけております。

治療について
大きく分けて、内科治療と外科治療の2つがあります(詳細は以前のBLOGを参照)。
一般的には、後ろ足を引きずっている"グレード3"より重度の場合は手術が推奨されております。
今回は特に手術の具体的な方法についてや術後管理などについて、当院での治療内容をご説明いたします。
椎間板が飛び出ると、背骨(椎体)の中を走っている脊髄を圧迫します。
圧迫が軽度であれば、痛み(グレード1)やふらつき(グレード2)のみで、安静なお薬などの内科治療で改善することも多いですが、圧迫が重度になると、起立歩行ができなくなったり(グレード3)、排尿障害(グレード4)や肢端の痛みの感覚がなくなる(グレード5)ほど重度の症状が見られることがあり、一般的には、物理的に圧迫している椎間板を取り除く手術が必要となります。
中には、椎間板による圧迫が強くないのに、脊髄の損傷がひどく、症状が重度の場合もあり、必ずしもグレード3以上で手術が必要となる分けではありません。
また、グレード1やグレード2でも、圧迫が重度で内科治療に反応がない場合は手術が必要になることもあります。
一般的な椎間板ヘルニアに対する手術方法はいくつかご紹介します。

・片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)
最も一般的な手術方法です。関節突起を切除して広く椎体を削り椎間板を切除します。広く椎体を削ることで、大きく飛び出した椎間板を良好に切除することができます。
・小範囲片側椎弓切除術(ミニヘミラミネクトミー)
関節突起を切除せずに、椎体の腹側の部分を小さく削ります。脊髄の真下に飛び出た椎間板を良好に切除することができます。また、関節突起を切除しないため、術後に椎体の不安定性が生じるリスクを軽減できます。
・部分的側方椎体切除術(コルペクトミー)
他の2つの手術は急性に逸脱した椎間板を切除する手術方法ですが、この手術は慢性的に突出した椎間板を除去する時に実施します。椎体の腹側部分を削り、脊髄の真下から突出している椎間板を切除します。
MRI検査にて椎間板の種類や圧迫の仕方を確認し、適切な手術方法を選択します。当院では、ぼぼ全ての症例で手術用顕微鏡を用いた手術を行っております。手術用顕微鏡を使用することで、脊髄を損傷を防ぎ、より丁寧で安全な手術を行うことができます。

当院では急性の椎間板ヘルニアで、早急な手術が必要な場合は、MRI検査と同時にそのまま手術まで行うこともあります。
一回の麻酔で検査と手術が行えるため、動物に負担が少なく、かつ早急に治療を行うことができます。
ただし、手術に時間がかかることが予想される場合や安全に手術が行えないと判断される場合は、検査と別日に手術を行うこともあります。

検査や手術を決断するタイミングについて
胸腰部の椎間板ヘルニアで起立不能となり、特にグレード4やグレード5となっている場合は、早急に検査・手術を行うことをお勧めします。グレード5の場合は、痛みの感覚が消失してから時間が経過してしまうと、治療後の回復率が低下する可能性があり、可能な限り早急な治療が推奨されております。以前は、48時間以上経過している症例は、改善の見込みがないことから手術不適応とされておりましたが、現在の治療ガイドラインでは、時間が経過していても脊髄軟化症の兆候が見られなければ、手術により改善する可能性があることが示されております。早急な治療が理想的ではありますが、時間が経過していても諦めずに手術に臨むこともあります。また、グレード1やグレード2の場合でも、脊髄の圧迫が重度で内科治療にて反応が見られない場合は、手術が必要になることがあります。



術中術後管理について
当院では、術中および術後の疼痛管理を積極的に行い、なるべく動物に負担がないように手術を行っております。手術を行った後も良好な起立歩行が可能になるまでは、リハビリテーションを積極的に行い、退院時にご家族と一緒に自宅にて行えるリハビリテーションの指導も行っております。当院でのリハビリテーションについては、以前のBLOGをご参照下さい。

さいごに
当院では、椎間板ヘルニアの診断・手術・術後管理まで一貫してサポートを行い、動物が元気にまた走れるようになることを目指して、飼い主さんと主治医と協力して治療にあたっております。椎間板ヘルニアについての診断や治療について不安なことがございましたら遠慮なく当院までご相談下さい。



参考文献
ACVIM consensus statement on diagnosis and management of acute canine thoracolumbar interbertebral disc extrusion. JVIM 2022.