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急性大腸性下痢における抗生剤使用について
今回は、急性大腸性下痢における抗生剤使用についての論文のご紹介です。
https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/260/S3/javma.22.08.0349.xml
要約すると、抗生剤を使用しない方が急性大腸性下痢の回復が早かった、というものです。
急性大腸性下痢の治療では、抗生剤を投与される事が少なくありません。
今後の急性大腸性下痢に関して、治療が見直されると思われます。
今回は、そんな大腸性下痢についてのお話しです。
<小腸性下痢と大腸性下痢>
下痢には種類があって、
* 小腸性下痢
* 大腸性下痢
の2種類があります。
小腸は摂取した食べ物を消化吸収する場所になりますので、小腸で下痢を起こすと栄養が吸収できず、体重が落ちていきます。
また、出血した場合は消化の過程で血液は黒く酸化し、実際に下痢として排泄される頃には真っ黒の下痢になってしまう事と、排便の回数に大きな変化は無い事も特徴です。
対して大腸での下痢は何度も便意に襲われ、頻回にトイレに行く事が特徴的です。
また、大腸での出血は、出血してもすぐに下痢として排泄されますので、赤いままです。
<大腸性下痢の原因は?>
大腸性下痢の原因には、
* 食べ物
* 感染(細菌、寄生虫、ウイルスなど)
* ストレス
* その他
が挙げられます。
この中で、食べ物(食べ慣れないものをあげた、与えすぎた)や感染など、原因がはっきりしているものに対しては、その原因に対する治療が必要です。
では、そうではないストレス性とはどのようなものがあるのでしょうか?
<ストレス性の下痢とは?>
ストレス性の下痢は犬でよく見られます。
原因は何が多いかというと、
* ホテルに預けた
* 家にたくさんのお客さんが来た
* 家の近くで工事が始まった
* その他
など、「環境の変化」です。
いつもと違う環境の大きな変化をストレスと感じ、その結果、急性の下痢を起こしてしまうのです。
<ストレス性急性大腸性下痢の治療法は?>
これまでの治療法としては、止瀉薬、乳酸菌製剤、抗生剤などの投与がよくあるパターンであったと思います。
それが今回の論文において、抗生剤を併用するより食事療法(消化しやすく食物繊維を含む療法食)単体の方が回復が早かった、という結果になったようです。
そうなった理由の一つとして、腸内細菌叢の変化が挙げられています。
抗生剤投与によって善玉菌が減少し、結果的に回復を遅らせたというのです。
<最後に>
急性大腸性下痢の場合、明らかな感染症や誤食などが無い場合は適切な食物繊維を含む食事療法単体の方が回復が早かった、という論文のご紹介でした。
適切な食事は善玉菌の増殖を助け、結果的に下痢からの回復を早めます。
抗生物質の使用は、腸内細菌のバランスを崩す可能性が高く、また、耐性菌の問題もあり慎重に使用すべきという流れになってきています。
また、脳腸相関(腸内細菌が精神に与える影響)など、腸内細菌叢の重要性も今後明らかになっていくとともに、抗生剤の使用にはより慎重になる必要があると思われます。
当院、総合診療科では消化管の内視鏡検査も実施しております。
異物誤食、慢性の嘔吐や下痢など、消化器症状を抱える動物のご紹介、セカンドオピニオンも受け付けておりますので、お気軽にお問合せください。
総合診療科
獣医師 河野和一郎