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循環器の病気

心臓病って? 〜僧帽弁閉鎖不全症とは〜


心臓病って?


“僧帽弁閉鎖不全症”という病気を聞いたことはありますか?もしくは“MR”という言葉を聞いたことはないでしょうか?

“僧帽弁閉鎖不全症”は犬の心臓病の中では最も多い病気だと言われています。

自分の家族である愛犬が「心臓が悪い」と動物病院で伝えられた時に、もしかするとこの病名で診断を受けている方も多くいらっしゃるのではないかと思われます。

“僧帽弁閉鎖不全症”とは一体どんな病気なのか?ここではその説明や診断、そして治療についてご説明できればと思います。


まず、“僧帽弁”とは左心房と左心室の間に存在している弁の名前になります。この弁は2枚でできており扉のような形となっています。この形が、「僧帽」というキリスト教のカトリックの司祭がかぶる帽子に似ていることより、名づけられました。僧帽弁は逆止弁なので、左心房から左心室に向かってしか開かないようになっています。大動脈や左心室では高い血圧が発生しており、僧房弁はこの血圧から肺や肺の血管を守っているのです。この左心房から左心室に血液が流れていく時に、通過していく弁に異常が起こり、弁がうまく閉じきれずに、血液が左心室から左心房へと逆流してしまうこと、これが“僧帽弁閉鎖不全”という状態です。この時に起こる逆流は“僧帽弁逆流”と呼ばれ、“MR”と略されることもあります。



 “僧帽弁閉鎖不全症”の原因としては、加齢による弁の粘液腫様変性が最も多いとされています。つまり、弁がもろくなったり厚くなったりすることで、弁同士の噛みあわせが悪くなり、弁の役目をはたすことができずに、本来の血液の流れと逆に血液が流れてしまうのです。また僧帽弁を支えている筋に異常が起きても、この弁の動きはスムーズにいかなくなってしまいます。こういった弁の変化は、通常は徐々に時間をかけて進行していく、加齢性のものであるとされています。


 では、この病気はどの犬種においてかかりやすいのでしょうか?

僧帽弁閉鎖不全症に関しては、様々な報告があります。以前よりキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルにおいて遺伝することが報告されており、実際にキャバリアでは若い年齢でも罹患している例が多いように感じます。また、現在の日本ではシニア期の小型犬での罹患率が高く、キャバリア、シーズー、チワワ、トイプードル、パピヨン、ポメラニアン、マルチーズが好発犬種とされています。


 僧帽弁閉鎖不全症は、初期の段階では症状を認めません。病気が進行していくと、症状の一つとしてを認めることがあります。しかし、咳は僧帽弁閉鎖不全症に特異的な症状ではなく、その他の心臓の病気でも認められます。また、シニア期の小型犬では慢性気管支炎といった呼吸器の病気でも咳を認めるため、これらを鑑別しなければなりません。その他の僧帽弁閉鎖不全症の症状としては、運動をしたがらない、呼吸困難、呼吸数が増える、失神、腹水を認めることがあります。



 僧帽弁閉鎖不全症は初期が無症状であることから、予防や他の症状で来院した際に身体検査での聴診時に心雑音が聴取され、見つかることが多いかと思います。また、健康診断での超音波検査時にごく軽度の僧帽弁逆流が見つかることも増えてきました。

この病気を診断するには、問診や身体検査といった動物の基本的な状態を把握することはもちろん重要ですが、確定診断をするために、さらにレントゲン検査、心電図検査、超音波検査を行う必要があります。レントゲン検査では、心臓の拡大や肺の様子を判断します。

心電図検査では心拍数や不整脈がないかを確認します。超音波検査では、心臓の拡大がないか、また心臓の形態や機能を細かく評価していきます。また、必要に応じて外注血液検査によって心臓バイオマーカーを測定し病態の評価を行います。

僧帽弁閉鎖不全症は、アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)において診断・治療のガイドラインが発表されています。以上の検査において、僧帽弁閉鎖不全症と確定診断された場合に、このガイドラインにそってステージングを行い、ステージごとの管理を行います。

このステージは、無症候期(ステージA,B1,B2)と症候期(ステージC,D)に分けられています。



 僧帽弁閉鎖不全症の治療には内科的治療と外科的治療が存在します。

ステージAやステージB1は無治療となり、必要に応じて定期的な経過観察を行い、進行がないかをチェックしていきます。ステージB2より、内科的治療では強心剤や血管拡張剤、利尿剤のような内服薬をそれぞれの病態に応じて選択していかなければなりません。また、ステージが進行すると状況によっては入院治療が必要になる事もあります。長期的な治療を行っていく中で、薬の種類によっては定期的に他の臓器への負担がかかっていないかをチェックする必要もあります。症状の改善が認められるか、またその時の身体の状態にあわせて内服薬を調整していく必要があります。

現在、心不全を発症すると内科的治療を行なっても中央生存期間は247日と報告されています。この期間は平均値ではないため、より短い期間で亡くなる場合もありますし、この日数を超えてより長い期間生存する場合もあります。また、ステージが進行していくと、生存率も下がるような報告もあります。


 一方、外科的治療はステージB~Dにおいて実施されています。

例えば、内科的治療を行ってもあまり改善が認められなかったり、ステージの進行具合に限らず、肺水腫を繰り返してしまっているような状況は、外科的治療を検討する基準となります。ただし、外科的治療には実施している施設数が少ないことや、治療にかかる費用が高額であること、また手術後も場合によっては内服薬の継続が必要であること、さらに高齢で手術を実施する場合が多いため、術後に別の病気に罹患するリスクなどが存在します。よって、病態の判断と以上のことを踏まえて内科的治療と外科的治療を検討する必要があります。


 このように、愛犬が心臓病に罹患してしまった場合に少しでも長く快適に病気と付き合っていくためには、正しい診断と適切な治療が必要となります。当院では、主治医の先生とご家族が安心して病気と向き合っていけるよう、獣医循環器認定医による病気のインフォームドや診断・治療のお手伝いを行なっております。